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壁と橋

退勤後、上野の東京都美術館へ。ゴッホ展に並ぶ人を横目に、「壁は橋になる」展に駆け込む。

「日記映画」を数多く残したジョナス・メカスの作品「歩みつつ垣間見た美しい時の数々」は全編4時間48分。78歳で編集し、「日記映画」の集大成を作り上げたメカス。一連の展示を鑑賞した後、閉館のアナウンスが流れるまで興味深く見た。結婚式のシーンあたりから、メカスを映す妻に心惹かれた。


増山たづ子。

インパール作戦に従軍し、戦死したであろう夫がもし帰還した時、故郷が水没して二度と目にできなくなっていたというのでは忍びない。そのために、村と人々を記録に留めておこうと、60歳からふるさとの岐阜県徳山村を撮影し続けた。


初めて聞いた村の名前を、マーシャル諸島に置き換えて展示を眺める。

この村は、ダム建設のため水没した。

撮影総数10万カット。アルバム600冊の、記憶の架け橋。

フィルムや現像代が高価な時代、年金すべてを投じて、ひとり時空を超える橋を作った。

古老の昔話をテープレコーダーに録音する根っからのアーキビストという紹介文の一文を読んで、「女性の日記から学ぶ会」代表島利栄子さんの顔が浮かぶ。


哀しみ、憤り、やるせなさ。笑みの対極にある感情を鎮めて、ファインダーを構えた。

シャッターを切る数秒前、数秒後には、暗い顔をしているかもしれない被写体の顔に、柔らかな笑みがこぼれている。

無数に並んだ写真のどれもが胸に迫ってくるのは、見えない想いと覚悟と断念があるから。

著書を購入しようとしたら、今すぐ手が伸びる価格ではなかった。図書館で予約。

会期終了の10/9まで、もう一度行けたら見に行きたい。学生は無料。


ベルギーのブリュッセルで、コロナ禍でダメージを受けたメンタルヘルスの回復に、医師が3ヶ月美術館・博物館への無料見学を「処方」とする記事を数週間前に読んだ。

日本もぜひ取り入れてほしい。

「壁は橋になる」は一般800円、学生のほかに外国籍の方も無料。


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